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正信偈の解説と現代語訳

正信偈に登場する七高僧の天親菩薩はどんな人なのか

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天親菩薩について説明します。親鸞聖人が記された「正信偈」の中に登場し、一心を明らかにされた方です。

天親というと、福岡の街を思い浮かべるけど
関係はないよ。天親菩薩の「親」は親鸞聖人の名前の由来になっているよ
そういえば正信偈に「天親」って何度も出てきたね

天親菩薩について

正信偈の中で「天親菩薩造論説 帰命無碍光如来 依修多羅顕真実 光闡横超大誓願」と述べられています。ここに天親菩薩の名前が登場し、その功績を讃嘆されています。

5世紀の初め頃、パキスタンの北西部にあたるペシャワールにお生まれになりました。

主著に『浄土論』というお書物がありますが、正式名称は『無量寿経優婆提舎願生偈』といい、また『往生論』とも略されます。

天親菩薩には、3人の男兄弟がいました。当時は自らの悟りのみを求めていく部派仏教が盛んでした。そのため、天親菩薩を含め3人兄弟の仏教の入り口は、部派仏教で修行者として出家されました。そして、各々が学問を深め、修行に励んでいました。

中でも学問においても、修行においても天親菩薩が秀でていたといいます。部派仏教のすべての教えを極められ、『倶舎論』など様々な書物を著されました。その中では、「大乗仏教は仏の所説にあらず」と言って、大乗仏教の教えを誹謗されました。つまりは、阿弥陀仏の救済や仏様を否定することでした。

天親菩薩の転機

天親菩薩には無著菩薩というお兄さんがいました。彼は、部派仏教の教えに満足出来ず、大乗仏教の教えを依りどころとして、多くの書物を残されました。

兄の無著菩薩は、弟の天親菩薩が大乗仏教を否定し、阿弥陀仏の教えを謗ることに胸を痛めていました。そこで、大乗仏教を知ってもらえるようにと、天親菩薩を驚かせます。

天親菩薩に届けられた手紙には「兄重病、すぐ帰れ」というものでした。

急いで駆けつけた天親菩薩でしたが、兄の様子はいつもと何ら変わりはありません。理由を聞いてみると、

「私は今、こころの病にかかっている。それは天親菩薩あなたが大乗を信じずに、これを非難しているからだ。大乗仏教を知らずに過ごす弟を見過ごすわけにはいかないのだよ」

その言葉を聞いた天親菩薩は驚いて、すぐに無著菩薩に教えを請いました。学識豊かだった天親菩薩ですから、兄の言葉を聞いてすぐに「大乗の教えが何であるのか」、その本意を見抜き、理解されました。そして部派仏教の教えよりも大乗の教えのほうが勝れているということに気づかれるのでした。それと同時に、これまで大乗仏教を非難していたことを深く反省されました。

そして、大乗仏教に帰依された天親菩薩は様々な経典の解釈書を多くのこされました。

こうして元来書かれていた部派仏教の著作500部、大乗仏教の著作500部を著したといい、千部の論主と称されます。

天親菩薩の教え

正信偈の中では「天親菩薩造論説」と言われるように「天親菩薩が論説を造られた」と登場します。

その書物こそ『浄土論』であり、お浄土への往生の道を明らかにしてくださいました。わずか14ページにすぎない小さな書物ですが、大乗仏教の教えを、阿弥陀仏の浄土に往生を願うという形で表された、天親菩薩の根本論書と言われています。

大乗仏教は、自分ひとりの悟りに安住する教えではありません。部派仏教は自分一人の悟りに安住することから、天親菩薩は大乗仏教こそ素晴らしい教えであると選ばれました。自分も他人もともに悟りに至る教えこそ、真実の教えであると示されました。

その『浄土論』の最初には、天親菩薩が阿弥陀如来の浄土に往生したいと願うことから始まります。

浄土論

世尊、我一心に尽十方無碍光如来(阿弥陀仏)に帰命したてまつりて、安楽国に生ぜんと願ず

この天親菩薩の信仰の表明から始まります。まるで正信偈の最初と終わりのようです。「帰命無碍光如来」と「願生安楽国」のように、「無量寿如来に帰命し」と「願わくば安楽国に生まれんとす」のようです。

天親菩薩の教えには、自分だけが浄土に往生するのではなく、みなが浄土に参れる大乗の教えを示され、そして阿弥陀如来に帰命されたたことを「一心」と表されました。これが天親菩薩の教えの特徴です。

天親菩薩の功績

天親菩薩は、苦しみ悩む私たちが「一心」で往生を得ることを明らかにされました。

一心とは、信心のことで、自らが信じる心ではなく、阿弥陀如来より賜る御信心といえます。自力の信心ではなく、他力の信心です。

他力の信心とは、専一の心という面と、二心がない無二心という面があります。

専一の心とは、阿弥陀如来の本願以外に心を動かさないということです。阿弥陀様の救済1つで十分であると、阿弥陀様にお任せする心です。

無二心とは、救われることに疑いがなく、迷うことなく、阿弥陀様に身を委ねるこころです。

『浄土論』の中には、5つの行が説かれています。

五念門

①身を弥陀に礼拝する礼拝門
②口に弥陀のお徳を讃える讃歎門
③心に往生を念じて心を乱さない作願門
④心に浄土や仏や菩薩のありまさを観じる観察門
⑤苦しみ悩む人々を救う救済の行いの廻向門

という5つがありますが、①から④は自らのさとりの智慧を完成する自力の行ですが、最後の⑤だけ他を救済する慈悲の行になります。

つまり、阿弥陀如来が起した本願と兆載永劫のご修行の中にすべての行が込められており、その功徳を⑤廻向によって私たちに届けられたはたらきこそ、他力の一心であり、御信心であるとお示しくださいました。

この一心の中に、智慧と慈悲の行が完成した功徳が備わっており、その信心を頂くことが因となって往生成仏が間違いないと言えるのです。

親鸞聖人が天親菩薩を七高僧に選定した理由

七祖の選定した理由に、

ポイント

①阿弥陀仏の本願に生きられた人
②書物を残して阿弥陀仏の教えを広めた人
③阿弥陀仏の本願について、真意を明らかにされ解釈した人

という点から考えると、天親菩薩はすべての衆生が救われていく道を示されたことが挙げられます。

親鸞聖人の記された正信偈の中には「広由本願力回向 為度群生彰一心」(広く本願力の回向によりて、群生を度せんがために一心を彰す)とあります。阿弥陀如来より回向された一心の重要性が述べられています。この一心には、仏の智慧と慈悲が備わっているから、それが浄土に生まれる因となり、菩薩も苦しみ悩む凡夫も浄土に行ける道であることを示されました。

ですので、親鸞聖人が七高僧の天親菩薩の選定理由として

①阿弥陀仏の本願に説かれた一心によって往生を願った
②『浄土論』を記し、阿弥陀仏の教えを広めた
③一心によって往生することを明らかにされた

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