新しいお寺のかたち

正信偈の解説と現代語訳

正信偈の意味【天親菩薩造論説 帰命無碍光如来】全文現代語訳

更新日:

現代語訳

天親菩薩は、『浄土論』を著して、「無碍光如来に帰命したてまるつる」と述べられた。

この度は、正信偈「天親菩薩造論説 帰命無碍光如来」について意味を分かりやすく解説します。

語句説明

天親菩薩・・・400〜480年ごろ。ガンダーラ地方のペシャワール地方で生まれる。世親とも訳す。兄の無著菩薩の導きにより大乗仏教に帰依された。後に『浄土論』を作り、阿弥陀仏の浄土往生を願い、人々にすすめられた。

天親菩薩の『浄土論』の正式名称を漢字でかける?
無量寿経優婆提舎願生偈だよ。難しいね
龍谷大学の大学院での試験で出たらしいから要チェックね

正信偈の原文

天親菩薩造論説
てんじんぼさつぞうろんせつ
帰命無碍光如来
きみょうむげこうにょらい

正信偈の書き下し文と現代語訳

【書き下し文】天親菩薩、『論』(浄土論)を造りて説かく、無礙光如来に帰命したてまつる

【現代語訳】天親菩薩は、『浄土論』を著して、「無碍光如来に帰命したてまるつる」と述べられた。

正信偈の分かりやすい解説

天親菩薩について

ここからはインドの天親菩薩について述べられています。天親菩薩は、龍樹菩薩からおおよそ200年後に、北インドにお出ましになられました。西暦400年ごろに生まれられて、480年ごろに亡くなられました。お釈迦様の時代から数えて、800年後のことです。

「天親」という呼び名のほかに、「世親」という呼び方もされています。私たちは「天親菩薩」とお呼びすることがほとんどですが、仏教では一般的に「世親菩薩」と呼ばれています。

天親菩薩は若くに出家され、北インドのカシュミールという地域で部派仏教を学び、学問をきわめられたと伝えられました。深い学識によって教義の探求に大成功をおさめられ、その部派を代表する学僧になられました。ところが、伝統仏教をよりどころにしておられた天親菩薩は、兄の無著菩薩から強く批判されました。そして無著菩薩に説得されて、部派仏教を捨てて大乗仏教に転向されました。

伝統仏教では、自分1人が煩悩から離れて阿羅漢という聖者になることを理想にしていました。それに対して兄の無著は、お釈迦様が願われたのは、すべての人と共に、悟りの道(救われること)を目標とする、大乗の精神をよりどころにしていました。

天親菩薩は、これまで部派仏教を代表とする学僧として、大乗仏教を劣った考えだと批判していましたが、兄の無著菩薩の説得によって、自らの行いを反省しました。そして部派仏教の教えを捨てて、兄の無著から教えを受けて大乗を学びました。これまで部派仏教の学問を極められ、深い学識によって探求してきた天親菩薩にとって、これまでとは根本的に異なる大乗の教えを学び受け入れていくことは容易ではありませんでした。そのような挫折のなかで、天親菩薩は、『仏説無量寿経』の教えに出会われます。そこには、自分の実力で仏になろうとするのが大乗仏教だと思い込んでおられたのに、そうではなくて阿弥陀仏の願い(お心)を聞き、本願に身をゆだねること(帰依すること)こそが、お釈迦様が願われたことであり、それこそが大乗仏教であること気づいていかれるのでした。

インド
天親菩薩と兄無著菩薩との詳しい経緯

天親菩薩について説明します。親鸞聖人が記された「正信偈」の中に登場し、一心を明らかにされた方です。 天親というと、福岡の街を思い浮かべるけど 関係はないよ。天親菩薩の「親」は親鸞聖人の名前の由来になっ ...

続きを見る

浄土論について

そこで天親菩薩は、『仏説無量寿経』の教えの大切なところを「論」としてまとめらました。それが『浄土論』という本です。

「正信偈」の中で「天親菩薩、論を造りて説かく」とありますが、それは天親菩薩が、従来の1人だけが悟りを目指す生き方を捨てて、大乗仏教の教えに帰依して『浄土論』を著わしました。次の句に「無碍光如来に帰命したてまつる」とは、「無碍光如来」というのは「阿弥陀仏」のことで、『仏説無量寿経』によって阿弥陀仏の本願に目覚められ、本願をよりどころにされた天親菩薩の信心が表明されています。

『仏説無量寿経』というときの「仏説」とはお釈迦様のことで、「お釈迦様が無量寿如来についてお説きになられたお経」つまり「お釈迦様が阿弥陀仏について説かれたお経」ということです。このお経について、私たちに分かるように天親菩薩が注釈を加えられたものを『浄土論』と言います。

『浄土論』は通称で、正式名称を『無量寿経優婆提舎願生偈』(むりょうじゅきょううばだいしゃがんしょうげ)といいます。「優婆提舎」とはインドの言葉で、訳は「論議」という意味です。『仏説無量寿経』の「論」ということです。

次に「願生偈」とあるが、本書の中で天親菩薩が阿弥陀仏の浄土に生まれたいと願われた内容を「偈」(歌)にして五言96行、480文字に述べてあり、その後に、「長行」といわれる長文の文章によって、その意味を解説してあります。したがって往生を願われた「偈」と、その「偈」についての論議とを合わせたものが『無量寿経優婆提舎願生偈』(浄土論)ということになります。

天親菩薩の姿勢

『浄土論』の冒頭に「世尊我一心 帰命尽十方 無碍光如来 願生安楽国」(世尊、我一心に尽十方無碍光如来に帰命して、安楽国に生まれんと願ず)という4句があります。「尽十方無碍光如来」は、阿弥陀如来のことです。ですので、意味は「私は一心に阿弥陀仏に帰依(お任せ)し、浄土(安楽国)に往生したいと願います」ということです。天親菩薩は『仏説無量寿経』の教えについて述べられるにあたって、どのような気持ちで今から論を進めるのかという、自身の基本的な姿勢を明らかにされました

天親菩薩は、まず「世尊」といってお釈迦様に向かって呼びかけておられますそれは、お釈迦様に語りかけるように、決意を表明するためにも「世尊」と冒頭に出てきます。

それは、「正信偈」の冒頭も同じような作り方です。「帰命無碍光如来 南無不可思議光」とまず親鸞聖人の「帰敬序」でお心を明らかにされた上で、正信偈が始まります。ここに私たちのお経(仏教の教え)に対する姿勢が表されています。お経の客観的、論理的な読み方も必要ですが、最も大切な事は「帰命」の心がなければならないという事です。

帰命
帰命無碍光如来とはどういう意味か

現代語訳 限りない命の阿弥陀如来にお任せし、思いはかることのできない光の阿弥陀如来に帰依きえしたてまつる。 この度は、正信偈「帰命無量寿如来 南無不可思議光」について意味を分かりやすく解説します。 語 ...

続きを見る

まずお経を読む前に、お経本を両手で押し頂く(頭の上に挙げて)から、読み始めるのはその為です。

正信偈の出拠

『高僧和讃』天親菩薩のみことをも 鸞師ときのべたまはずは
他力広大威徳の 心行いかでかさとらまし

『高僧和讃』尽十方の無礙光仏 一心に帰命するをこそ
天親論主のみことには 願作仏心とのべたまへ

願作仏の心はこれ 度衆生のこころなり
度衆生の心はこれ 利他真実の信心なり

『二門偈』世親菩薩(天親)は、大乗修多羅真実功徳によりて、一心に尽十方不可思議光如来に帰命せしめたまへり。

『高僧和讃』天親論主は一心に 無礙光に帰命す
本願力に乗ずれば 報土にいたるとのべたまふ

Copyright© 正信偈の解説と現代語訳 , 2024 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.